魔術師の時代
「世界には、魔術師と呼ばれる人種がいる」
ようやく仲川が口を開いた時には、すっかりティーポットは本来の透明な色を取り戻していた。
「僕は呪禁魔術と呼ばれる魔術を使う魔術師だ。呪禁魔術は、物と者の影響を遮断することで、一定の現象を起こしたり、本来は起こるはずの現象を起こさない、という二通りの魔法を使う」
たとえば、と突然、仲川は持っていたガラスのティーカップを真上に投げる。
「このまま、床に落ちれば割れる」
仲川の背後をカップが落下し、ソファーの後ろに消える。だが、いくら待ってもカップが割れた音どころが、落ちた音さえしない
「なぜ、カップが割れるのか。答えは簡単だ。『カップと床がぶつかるから』。ならば、床に接触させなければカップは割れない」
立ち上がった仲川はソファーの後ろでかがむと、ついさっき投げたガラスのカップを拾い上げる。
傷一つついていないカップ。
「これが呪禁魔術」
仲川はソファーに座り直すと、持っていたカップを映子に渡す。
やはり、ヒビも傷もない。
「それと、全く逆の性質を持つのが君の禁厭魔術。触れた物を全て破壊する」
「触れた物を……」
「そう。この場合の物の定義は『物体』『物質』だな。とにかく、『触れた』という認識があれば何でも破壊する。これは、君の意志にかかわらず機械的に『触れた』と感覚を持てば瞬時に反応する」
ようやく仲川が口を開いた時には、すっかりティーポットは本来の透明な色を取り戻していた。
「僕は呪禁魔術と呼ばれる魔術を使う魔術師だ。呪禁魔術は、物と者の影響を遮断することで、一定の現象を起こしたり、本来は起こるはずの現象を起こさない、という二通りの魔法を使う」
たとえば、と突然、仲川は持っていたガラスのティーカップを真上に投げる。
「このまま、床に落ちれば割れる」
仲川の背後をカップが落下し、ソファーの後ろに消える。だが、いくら待ってもカップが割れた音どころが、落ちた音さえしない
「なぜ、カップが割れるのか。答えは簡単だ。『カップと床がぶつかるから』。ならば、床に接触させなければカップは割れない」
立ち上がった仲川はソファーの後ろでかがむと、ついさっき投げたガラスのカップを拾い上げる。
傷一つついていないカップ。
「これが呪禁魔術」
仲川はソファーに座り直すと、持っていたカップを映子に渡す。
やはり、ヒビも傷もない。
「それと、全く逆の性質を持つのが君の禁厭魔術。触れた物を全て破壊する」
「触れた物を……」
「そう。この場合の物の定義は『物体』『物質』だな。とにかく、『触れた』という認識があれば何でも破壊する。これは、君の意志にかかわらず機械的に『触れた』と感覚を持てば瞬時に反応する」
死者
深山映子は死者だ
正確には、これから死者になる。
信号はいい感じに、点滅する青から赤に変わる。タイミングよく、信号が青に変わったところへ大型のトラックが走ってくる。
ゆっくりと、映子は横断歩道を進む。
信号がちょうど青に変わったために、速度がゆるまなかったトラックは映子を避けることは出来ない。否、映子は避けさせたりはしない。
あっという間に、映子の身体は吹き飛ばされた。
一般的に、交通事故で人間がどの程度吹き飛ばされるのかは彼女は知らない。だが、彼女の目から見ても、映子の身体はずいぶんと飛ばされたように見えた。
しばらくして、数メートル進んだトラックから運転手が降りてくる。トラックの運転手というと、ランニングTシャツにタオルの鉢巻きの中年男かと思ったが、意外なことに若い好青年だった。
かれは、映子の死体に駆け寄り、生死を確認する。
無駄だ。
彼女は死んでいる。その証拠に、映子は今、肉体概念を失っている。
しばらくすると、警察や救急車が来て、救急車は映子の死体を持っていき、警察官達は人払いをはじめた。
「きみ。この中には入らないでくれないか?」
トラックの荷台に背持たれる映子に、警官の一人がそういう。
映子はいわゆる幽霊の状態だ。普通は見えないが、適性がある。
「すまない」
そういって、顔を上げた瞬間、一瞬でその警官の目が見開かれる。ムリもない、今まさにそこで死んでいる人物が目の前にいる
「……妹さんか、お姉さんかい?」
「本人だ」
氷点下の声色で映子は警官にそういうと、彼の腕を払いゆっくりとした歩調でその場を離れた。
肉体を再び手に入れるのは意外と骨が折れた。
廃マンションの一室を隠れ家に、持ち込んだ赤いソファに寝そべっているとコンクリートの階段を昇る、規則正しい音が聞こえる。
「深山映子の死亡を確認してきた」
扉を開けてまず仲川はそういうと、すぐ近くにあるコンビニではないロゴの入ったコンビニの袋を机に置いた。
これは、深山映子の家の近くにあるコンビニだと、彼女はしばらくして気がつく。
仲川は、その様子に軽く微笑し、中からとり五目のおむすびを出す。
「深山映子はこれが好きだという記憶がある。君も好きか?」
「好きだ」
エイコは微笑む仲川から、それを受け取り口に入れる。
「深山映子の死亡は確定か?」
おむすびを食べながら、エイコは訊ねる。
「ああ。今日が告別式だった。僕も、クラスメイトとして参加してきた」
「……」
深山映子は死亡した。
つまり、この世に深山映子は存在しない。
ならば、ここにいるエイコは誰か。
すなわち、だれでもない。
逆に言えば、だれでもいい。
深山映子は自らがだれでもなくなった時に、狼狽えるほど愚か者ではなかった。それは、彼女にも受け継がれている。
「便宜上、今まで君をエイコと呼んできた。だが、それは今まで公式に深山映子が死亡していなかったから、一部の名前の音が君に引き継がれていたに過ぎない。深山映子が公式に死亡したため、その名前の音も既に失効している。君は今後、何と呼ばれる?」
「エイコはダメなのか?」
「ダメだ。映子は死亡した」
続きを読む..
正確には、これから死者になる。
信号はいい感じに、点滅する青から赤に変わる。タイミングよく、信号が青に変わったところへ大型のトラックが走ってくる。
ゆっくりと、映子は横断歩道を進む。
信号がちょうど青に変わったために、速度がゆるまなかったトラックは映子を避けることは出来ない。否、映子は避けさせたりはしない。
あっという間に、映子の身体は吹き飛ばされた。
一般的に、交通事故で人間がどの程度吹き飛ばされるのかは彼女は知らない。だが、彼女の目から見ても、映子の身体はずいぶんと飛ばされたように見えた。
しばらくして、数メートル進んだトラックから運転手が降りてくる。トラックの運転手というと、ランニングTシャツにタオルの鉢巻きの中年男かと思ったが、意外なことに若い好青年だった。
かれは、映子の死体に駆け寄り、生死を確認する。
無駄だ。
彼女は死んでいる。その証拠に、映子は今、肉体概念を失っている。
しばらくすると、警察や救急車が来て、救急車は映子の死体を持っていき、警察官達は人払いをはじめた。
「きみ。この中には入らないでくれないか?」
トラックの荷台に背持たれる映子に、警官の一人がそういう。
映子はいわゆる幽霊の状態だ。普通は見えないが、適性がある。
「すまない」
そういって、顔を上げた瞬間、一瞬でその警官の目が見開かれる。ムリもない、今まさにそこで死んでいる人物が目の前にいる
「……妹さんか、お姉さんかい?」
「本人だ」
氷点下の声色で映子は警官にそういうと、彼の腕を払いゆっくりとした歩調でその場を離れた。
肉体を再び手に入れるのは意外と骨が折れた。
廃マンションの一室を隠れ家に、持ち込んだ赤いソファに寝そべっているとコンクリートの階段を昇る、規則正しい音が聞こえる。
「深山映子の死亡を確認してきた」
扉を開けてまず仲川はそういうと、すぐ近くにあるコンビニではないロゴの入ったコンビニの袋を机に置いた。
これは、深山映子の家の近くにあるコンビニだと、彼女はしばらくして気がつく。
仲川は、その様子に軽く微笑し、中からとり五目のおむすびを出す。
「深山映子はこれが好きだという記憶がある。君も好きか?」
「好きだ」
エイコは微笑む仲川から、それを受け取り口に入れる。
「深山映子の死亡は確定か?」
おむすびを食べながら、エイコは訊ねる。
「ああ。今日が告別式だった。僕も、クラスメイトとして参加してきた」
「……」
深山映子は死亡した。
つまり、この世に深山映子は存在しない。
ならば、ここにいるエイコは誰か。
すなわち、だれでもない。
逆に言えば、だれでもいい。
深山映子は自らがだれでもなくなった時に、狼狽えるほど愚か者ではなかった。それは、彼女にも受け継がれている。
「便宜上、今まで君をエイコと呼んできた。だが、それは今まで公式に深山映子が死亡していなかったから、一部の名前の音が君に引き継がれていたに過ぎない。深山映子が公式に死亡したため、その名前の音も既に失効している。君は今後、何と呼ばれる?」
「エイコはダメなのか?」
「ダメだ。映子は死亡した」
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不死躰(2)
溶媒に血液を一滴垂らした瞬間、赤い血液は一気に液中で拡散し、色を増す。
赤みを増し続ける液体は、次第にその赤色だけが水槽の中央に集まりだし、気がつくと小さな人間の姿になっていた。
「人間……」
小さな人間ははじめ親指ほどだったのが、見ているうちに恐ろしい早さで大きく鳴り続け、ものの数分でロングヘアの17,8の女へ変貌する。
そして、女は溶液の中で目を開き水槽から自力で起き上がる。
「おはようございます。博士」
少女はそういって、微笑むと、小野の存在に気がつき小首をかしげる
「誰です?」
「小野善鬼君だ。例の調査団の研究員だよ」
へぇ、と納得したように頷くと、全裸の少女はそういって、握手を求める。
「律子です」
「どうも……」
小野は目のやり場に困りながら、握手を返す。
そんな様子に苦笑しながら、博士は律子にガウンを渡し、どうだい、と小野に話しかける。
「律子君は見ての通り不死躰だ。それも、オリジナルのな」
「オリジナル?」
「不死躰はすべて彼女を元に作られた、言うなればすべての不死躰は彼女の子供だ。たった一滴の血液からも再生され、しかも、彼女が再生されると他の断片は再生能力を失う。決して死なない不死躰だよ」
赤みを増し続ける液体は、次第にその赤色だけが水槽の中央に集まりだし、気がつくと小さな人間の姿になっていた。
「人間……」
小さな人間ははじめ親指ほどだったのが、見ているうちに恐ろしい早さで大きく鳴り続け、ものの数分でロングヘアの17,8の女へ変貌する。
そして、女は溶液の中で目を開き水槽から自力で起き上がる。
「おはようございます。博士」
少女はそういって、微笑むと、小野の存在に気がつき小首をかしげる
「誰です?」
「小野善鬼君だ。例の調査団の研究員だよ」
へぇ、と納得したように頷くと、全裸の少女はそういって、握手を求める。
「律子です」
「どうも……」
小野は目のやり場に困りながら、握手を返す。
そんな様子に苦笑しながら、博士は律子にガウンを渡し、どうだい、と小野に話しかける。
「律子君は見ての通り不死躰だ。それも、オリジナルのな」
「オリジナル?」
「不死躰はすべて彼女を元に作られた、言うなればすべての不死躰は彼女の子供だ。たった一滴の血液からも再生され、しかも、彼女が再生されると他の断片は再生能力を失う。決して死なない不死躰だよ」
不死躰
「不死躰だな」
シャオルはそういって少女をまたいで、うずくまるといきなり服をはがし始める。
「ほとんどは、廃棄処分になったはずだが。篠崎のグループが廃棄しなかったのの残りかもしれん」
「なんなの、不死躰って?」
ルナが訊ねる。
「文字通り死なない人間だよ。所謂、研究所の作品の一つだ。刺しても、絞めても、何をしても死なないように出来てて、軍事転用しようとした」
「成功したの?」
「した」
「じゃあなんで、処分したの?」
「……傷は必ず治った。腕をもぎ取られても、腕が生えてきた。もぎとられた腕からは、身体が生えてきた。そういうことだ」
「じゃあ、どうやって処分したの?」
「こいつらは、成長しない」
「?」
「完全な自分の設計図を持っていて、常にそれに忠実に身体を復元する。だから、大きくも成らないし小さくも成らない」
「設計図を取り上げたの?」
「設計図はDNAに書き込まれている。DNAはタンパク質だから熱に弱い。焼却処分した」
「芯まで一期に高温に達する焼却炉で、ってことね」
「頭のいい女は嫌いじゃない」
彼はそういうと、裸になった少女をひっくり返し首筋を探る。
「何かあるの」
訊ねるのと同時、シャオルは少女の襟足をかき上げ首筋をあらわにする。
「バーコード」
「RQコードだ。ケータイで読み込める」
そういって、シャオルが手を出すのですかさず、ルナは自分のケータイを差し出す。
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シャオルはそういって少女をまたいで、うずくまるといきなり服をはがし始める。
「ほとんどは、廃棄処分になったはずだが。篠崎のグループが廃棄しなかったのの残りかもしれん」
「なんなの、不死躰って?」
ルナが訊ねる。
「文字通り死なない人間だよ。所謂、研究所の作品の一つだ。刺しても、絞めても、何をしても死なないように出来てて、軍事転用しようとした」
「成功したの?」
「した」
「じゃあなんで、処分したの?」
「……傷は必ず治った。腕をもぎ取られても、腕が生えてきた。もぎとられた腕からは、身体が生えてきた。そういうことだ」
「じゃあ、どうやって処分したの?」
「こいつらは、成長しない」
「?」
「完全な自分の設計図を持っていて、常にそれに忠実に身体を復元する。だから、大きくも成らないし小さくも成らない」
「設計図を取り上げたの?」
「設計図はDNAに書き込まれている。DNAはタンパク質だから熱に弱い。焼却処分した」
「芯まで一期に高温に達する焼却炉で、ってことね」
「頭のいい女は嫌いじゃない」
彼はそういうと、裸になった少女をひっくり返し首筋を探る。
「何かあるの」
訊ねるのと同時、シャオルは少女の襟足をかき上げ首筋をあらわにする。
「バーコード」
「RQコードだ。ケータイで読み込める」
そういって、シャオルが手を出すのですかさず、ルナは自分のケータイを差し出す。
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