まじょっ娘
レイチェルが南領行きの馬車に乗ろうとした時。背後から呼ぶ声が聞こえる。
「マカベ?」
レイチェルが振り返ると、元ルーンのマカベが立っている。
「どうしたの?」
「旦那さんが、お前についてけって」
「はぁ?」
レイチェルは眉をひそめる。
「なんで?」
「腕の立たない魔術師には、腕の立つ騎士か魔術師がつくものだから、って。旦那様は言ってたけど?」
「腕の立たないって、私、宮廷魔術師なんだけど」
「知ってる。でも、旦那様から見たらひよこでしょ。それに若いし」
「まったくもう」
レイチェルは腕を組んで眉をひそめる。
「まあまあ、とにかく乗るよ」
「いいわよ。勝手にしな」
「マカベ?」
レイチェルが振り返ると、元ルーンのマカベが立っている。
「どうしたの?」
「旦那さんが、お前についてけって」
「はぁ?」
レイチェルは眉をひそめる。
「なんで?」
「腕の立たない魔術師には、腕の立つ騎士か魔術師がつくものだから、って。旦那様は言ってたけど?」
「腕の立たないって、私、宮廷魔術師なんだけど」
「知ってる。でも、旦那様から見たらひよこでしょ。それに若いし」
「まったくもう」
レイチェルは腕を組んで眉をひそめる。
「まあまあ、とにかく乗るよ」
「いいわよ。勝手にしな」
紙上乃楼閣(4)(BlogPet)
きのうは報道したかった。
*このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「房之介」が書きました。
「先輩。
どうしたんですよ。
だから楽しいんじゃないですか、先輩」
クスリと、タメを張ろうって言うの?」
「この、殺戮狂(ブラッド=フリーク)が」
まひるは傷口に右手をねじり込む。
しかし、まひるの姿がまた霞む。
突然、腹部を激痛が襲う。
「消えただけですよね」
そういって、まひるが現われる。
「房之介と、口角があがる。
「どういう、つもり?」
倒れ込んだ祐子の腹を切り裂いた。
「もっと、綺麗に鳴いて下さいよ」
刹那。
しかし、まひるの歓んでいる顔。
「っが」
祐子の額に冷や汗が垂れる。
その様子を、まひるは至近距離にもかかわらず、全てバックラーで捌く。
「房之介と、タメを張ろうって言うの?」
「それこそ心外よ」
倒れ込んだ祐子の腹をなぞる。
すると、小さなカマイタチが起こり祐子の死を確かめて踵を返す。
「何のように腹を切り裂いた。
*このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「房之介」が書きました。
紙上乃楼閣(4)
テレビを付ければ、イワシばかりで。
一匹あたり値段が1000円、らしい。
でも、そんなことは百年も前に分かっていたこと。
マスコミにいいように躍らされている、日本人が面白い。
さて、イワシは元々、漁獲量が定期的に変動して
大量な時期と、不漁な時期がサイクルするようになる。
うん、小学校の時の教科書に書いてあった。
その時は、誰でも知ってる常識なんだと思ってたけどそうではないみたい。
そうなら、ちゃんと報道で言えよ。
これじゃあ、情報操作よ?
一匹あたり値段が1000円、らしい。
でも、そんなことは百年も前に分かっていたこと。
マスコミにいいように躍らされている、日本人が面白い。
さて、イワシは元々、漁獲量が定期的に変動して
大量な時期と、不漁な時期がサイクルするようになる。
うん、小学校の時の教科書に書いてあった。
その時は、誰でも知ってる常識なんだと思ってたけどそうではないみたい。
そうなら、ちゃんと報道で言えよ。
これじゃあ、情報操作よ?
紙行錯誤(11)
それは、今年の初めのことだった。
陳腐な話だが、この世界の基盤は論理から魔法に変わった。
怪しげな学者が言うには、平世界がこの世界にぶつかったとか、重なったとか。学者が怪しければ、理論も怪しい。
とにかく、それによって人々の倫理観は大きく瓦解した。
人々は魔法に戸惑った。
しかし、崩れた倫理は、驚くべきほど早く再構築した。ただ、それは元に戻ったのではなく、新しく組み替えられた別のもの。
「やっぱり、殺しちゃいけないのか……」
紅璃は自分の手のひらを見つめる。一瞬で、あの異形の怪物を殺した力。試してはいないが、あの男は異形のみに効くような代物ではないといった。用は、これで他人を殺せる。それを思うと身震いがする。ようは、四六時中サブマシンガンを持っているようなものだ。しかも、実際に仕える状態にある。
「そりゃ、殺人だもんな。いままで、道具を使って人を殺してたのが、魔法を使うようになっただけ。表面だけ変わっただけで本質は変わらず、殺しは殺しなんだよ」
「だが、異形への防衛行為によって相手を殺すことは可能。まあ、そうしなきゃ死ぬなこっちが」
「それは、殺人じゃなく駆逐か。もともと、種には」
そう言ったとき、放送予告のベル。
『2−E、西藤紅璃さん、2−E、町田洋介君、2−C、遠藤花燐さん。至急、生活指導室に来て下さい。
繰り返します……』
「俺は飲酒していない」
先に口を開いたのは洋介。
「いや、誰もそんなこと言ってない。第一、煙草の可能性だって、深夜徘徊、麻薬、覚醒剤、暴力行為、破壊、痴漢、エトセトラ、エトセトラ。まあ、呼び出される理由なんてたくさんある。それで呼び出されたとしても全部ぬれぎぬだけど」
「当たり前だ。第一、薬やって、県内一位の成績取れるんだったら俺もやるぞ」
「も、かよ」
「仮定の話だ」
「それより、行かなきゃな」
「ああ」
渋々、二人は立ち上がった。
陳腐な話だが、この世界の基盤は論理から魔法に変わった。
怪しげな学者が言うには、平世界がこの世界にぶつかったとか、重なったとか。学者が怪しければ、理論も怪しい。
とにかく、それによって人々の倫理観は大きく瓦解した。
人々は魔法に戸惑った。
しかし、崩れた倫理は、驚くべきほど早く再構築した。ただ、それは元に戻ったのではなく、新しく組み替えられた別のもの。
「やっぱり、殺しちゃいけないのか……」
紅璃は自分の手のひらを見つめる。一瞬で、あの異形の怪物を殺した力。試してはいないが、あの男は異形のみに効くような代物ではないといった。用は、これで他人を殺せる。それを思うと身震いがする。ようは、四六時中サブマシンガンを持っているようなものだ。しかも、実際に仕える状態にある。
「そりゃ、殺人だもんな。いままで、道具を使って人を殺してたのが、魔法を使うようになっただけ。表面だけ変わっただけで本質は変わらず、殺しは殺しなんだよ」
「だが、異形への防衛行為によって相手を殺すことは可能。まあ、そうしなきゃ死ぬなこっちが」
「それは、殺人じゃなく駆逐か。もともと、種には」
そう言ったとき、放送予告のベル。
『2−E、西藤紅璃さん、2−E、町田洋介君、2−C、遠藤花燐さん。至急、生活指導室に来て下さい。
繰り返します……』
「俺は飲酒していない」
先に口を開いたのは洋介。
「いや、誰もそんなこと言ってない。第一、煙草の可能性だって、深夜徘徊、麻薬、覚醒剤、暴力行為、破壊、痴漢、エトセトラ、エトセトラ。まあ、呼び出される理由なんてたくさんある。それで呼び出されたとしても全部ぬれぎぬだけど」
「当たり前だ。第一、薬やって、県内一位の成績取れるんだったら俺もやるぞ」
「も、かよ」
「仮定の話だ」
「それより、行かなきゃな」
「ああ」
渋々、二人は立ち上がった。
短編の案
タイトル:覆面作家
あらすじ:人気作家の福沢祐希(ふくざわ ゆうき)は、作品ごとに硬い文体とポップな文体と変わるため、『覆面作家説』、『福沢祐希=ユニット名説』等と噂が絶えない。
ある日、打ち合わせに福沢の仕事部屋を羽柴なつみが訪ねると、そこでPCのキーボードを叩いているのは一匹の猫だった。
登場人物:
福沢祐希(ふくざわゆうき)26才
人気作家。
「三つの石」でデビュー。
独特の文体から、覆面作家説、ユニット名説などと噂の絶えない。
ホルモン異常で虚弱体質。
エクタクローム 4才
福沢の飼い猫。
二足歩行して喋る。その上、キーボードを叩く。
福沢のポップな方の担当。
「命婦のおとど」の子孫らしい。
羽柴なつみ(はしば−)24才
福沢の担当者。
小柄で童顔だが、切れ者ということで有名。
エクタクロームを遊び道具だと思っている。
続きを読む..
あらすじ:人気作家の福沢祐希(ふくざわ ゆうき)は、作品ごとに硬い文体とポップな文体と変わるため、『覆面作家説』、『福沢祐希=ユニット名説』等と噂が絶えない。
ある日、打ち合わせに福沢の仕事部屋を羽柴なつみが訪ねると、そこでPCのキーボードを叩いているのは一匹の猫だった。
登場人物:
福沢祐希(ふくざわゆうき)26才
人気作家。
「三つの石」でデビュー。
独特の文体から、覆面作家説、ユニット名説などと噂の絶えない。
ホルモン異常で虚弱体質。
エクタクローム 4才
福沢の飼い猫。
二足歩行して喋る。その上、キーボードを叩く。
福沢のポップな方の担当。
「命婦のおとど」の子孫らしい。
羽柴なつみ(はしば−)24才
福沢の担当者。
小柄で童顔だが、切れ者ということで有名。
エクタクロームを遊び道具だと思っている。
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近代科学幻想曲(3)
「ウィザード?」
白蓮は首をかしげて振り返る。
くわえたフォークが何とも……
「アホっぽい」
「知ってる」
「……」
「で、その魔法使いが何?」
「うーん。最近現われたハンターなんだけど。どうも、これがちょっとね」
ハンターというのは、テリトリーを全て失ったがスタジアムに所属せずに、オセロ参加者に戦いを挑み相手のテリトリーを奪うチーム。
特に、ルールブックに言及されているわけではないのだが、オセロ参加者にも、運営部にも黙認されている存在である。
「彷徨ってるってことは、まだ何処にも勝ってないってことだろう?」
「それが、逆なのよ」
なずなは眉間にしわを寄せる。
「逆?」
「全戦全勝。しかも、勝って手に入れたテリトリーをみんな天領にしてるの」
「何で?」
「知らないわよ。とにかく、ここらで被害に遭ってないチームは少ないわ」
「少ないって、別にチームは減ってないんだけど」
白蓮はそう言ってPDAを開く。
オセロの公式HPにアクセスする。
「あー。確認しなくていい。確かにチームは減ってないわ。そこが厄介なところなのよ。ウィザードっていうのは勝ったチームのテリトリーを半分だけ取ってくの」
「何でまた」
「だ〜から、私に聞かないでちょうだい」
白蓮は首をかしげて振り返る。
くわえたフォークが何とも……
「アホっぽい」
「知ってる」
「……」
「で、その魔法使いが何?」
「うーん。最近現われたハンターなんだけど。どうも、これがちょっとね」
ハンターというのは、テリトリーを全て失ったがスタジアムに所属せずに、オセロ参加者に戦いを挑み相手のテリトリーを奪うチーム。
特に、ルールブックに言及されているわけではないのだが、オセロ参加者にも、運営部にも黙認されている存在である。
「彷徨ってるってことは、まだ何処にも勝ってないってことだろう?」
「それが、逆なのよ」
なずなは眉間にしわを寄せる。
「逆?」
「全戦全勝。しかも、勝って手に入れたテリトリーをみんな天領にしてるの」
「何で?」
「知らないわよ。とにかく、ここらで被害に遭ってないチームは少ないわ」
「少ないって、別にチームは減ってないんだけど」
白蓮はそう言ってPDAを開く。
オセロの公式HPにアクセスする。
「あー。確認しなくていい。確かにチームは減ってないわ。そこが厄介なところなのよ。ウィザードっていうのは勝ったチームのテリトリーを半分だけ取ってくの」
「何でまた」
「だ〜から、私に聞かないでちょうだい」
紙行錯誤(10)
「先輩。どうしたんですか?」
まひるは祐子に尋ねた。
祐子の額に冷や汗が垂れる。
そんな祐子の様子に、まひるは楽しそうに唇を舐めた。
「何のよう?」
「裏切り者には鉄拳制裁」
まひるの口角があがり、妖艶に嗤う。
久々に見る、まひるの歓んでいる顔。
「私と、タメを張ろうって言うの?」
「なに言ってるんですか。私なんか、祐子先輩から見たら三下ですよ。だから楽しいんじゃないですか」
瞬間。
まひるの姿が霞む。
祐子はとっさに右後ろにバリアを張る。
鋭い閃光がバリアに弾かれる。
「勘は、鈍ってないようですね?」
「この、殺戮狂(ブラッド=フリーク)が」
祐子は吐き捨てるように言う。
「心外ですね。先輩ほどは狂ってませんよ?」
「それこそ心外よ」
祐子はカマイタチを三本放つ。
しかし、まひるは至近距離にもかかわらず、全てバックラーで捌く。
「っく」
「なら、行きますよ」
刹那。
まひるの姿がまた霞む。
今度は左にバリア、だが。
突然、腹部を激痛が襲う。
「っが」
口から鮮血が漏れた。
「何してるんですか、先輩?」
倒れ込んだ祐子の前に、まひるが現われる。
「消えただけですよ。ずっと前にいたんですから」
クスリと、口角があがる。
「さて」
まひるはそう言って、祐子の襟首を片手でつかみ持ち上げる。
「どういう、つもり?」
「人間の内臓が、好きなんですよね」
集束。
そして、二本指をそろえ、メスのように腹をなぞる。すると、小さなカマイタチが起こり祐子の腹を切り裂いた。
祐子が悲鳴をあげる。
その様子を、まひるはうっとりと見つめる。
そして、まひるは傷口に右手をねじり込む。
祐子がまた、鋭い悲鳴をあげる。
「もっと、綺麗に鳴いて下さいよ」
そういって、まひるは祐子の腹の中を探るように手を動かす。そのたびに、まひるの腕に血が伝わり、肘から血が雫になって落ちる。
「見つけた」
そう言った瞬間。
祐子の目が見開かれる。
「さようなら」
まひるは探し当てたそれを一気に引き抜いた。
劈くような悲鳴が、辺りに木霊して、すぐに止まった。
まひるは満足そうに引き抜いた赤い内臓を見る。
握り拳ほどの、脈打つそれ。
まひるは祐子の死を確かめて踵を返す。
「バイバイ、先輩」
まひるはそう言って、祐子の心臓を、まるでリンゴかなにかのように囓りながら夜闇に消えていった。
続きを読む..
まひるは祐子に尋ねた。
祐子の額に冷や汗が垂れる。
そんな祐子の様子に、まひるは楽しそうに唇を舐めた。
「何のよう?」
「裏切り者には鉄拳制裁」
まひるの口角があがり、妖艶に嗤う。
久々に見る、まひるの歓んでいる顔。
「私と、タメを張ろうって言うの?」
「なに言ってるんですか。私なんか、祐子先輩から見たら三下ですよ。だから楽しいんじゃないですか」
瞬間。
まひるの姿が霞む。
祐子はとっさに右後ろにバリアを張る。
鋭い閃光がバリアに弾かれる。
「勘は、鈍ってないようですね?」
「この、殺戮狂(ブラッド=フリーク)が」
祐子は吐き捨てるように言う。
「心外ですね。先輩ほどは狂ってませんよ?」
「それこそ心外よ」
祐子はカマイタチを三本放つ。
しかし、まひるは至近距離にもかかわらず、全てバックラーで捌く。
「っく」
「なら、行きますよ」
刹那。
まひるの姿がまた霞む。
今度は左にバリア、だが。
突然、腹部を激痛が襲う。
「っが」
口から鮮血が漏れた。
「何してるんですか、先輩?」
倒れ込んだ祐子の前に、まひるが現われる。
「消えただけですよ。ずっと前にいたんですから」
クスリと、口角があがる。
「さて」
まひるはそう言って、祐子の襟首を片手でつかみ持ち上げる。
「どういう、つもり?」
「人間の内臓が、好きなんですよね」
集束。
そして、二本指をそろえ、メスのように腹をなぞる。すると、小さなカマイタチが起こり祐子の腹を切り裂いた。
祐子が悲鳴をあげる。
その様子を、まひるはうっとりと見つめる。
そして、まひるは傷口に右手をねじり込む。
祐子がまた、鋭い悲鳴をあげる。
「もっと、綺麗に鳴いて下さいよ」
そういって、まひるは祐子の腹の中を探るように手を動かす。そのたびに、まひるの腕に血が伝わり、肘から血が雫になって落ちる。
「見つけた」
そう言った瞬間。
祐子の目が見開かれる。
「さようなら」
まひるは探し当てたそれを一気に引き抜いた。
劈くような悲鳴が、辺りに木霊して、すぐに止まった。
まひるは満足そうに引き抜いた赤い内臓を見る。
握り拳ほどの、脈打つそれ。
まひるは祐子の死を確かめて踵を返す。
「バイバイ、先輩」
まひるはそう言って、祐子の心臓を、まるでリンゴかなにかのように囓りながら夜闇に消えていった。
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近代科学幻想曲(1)
足音が遠くへ消えていく。
コンクリートがむき出しの壁に、ハンザキは寄り掛かる。
意識は靄がかかったように朧気で、不意に焦点が合わなくなる。それを、必死で意識を呼び起こすと、こんどは腹部の傷が痛んでくる。
勝手に家を抜け出して、あの殺戮バカに見つかった挙げ句このざま。
笑う気にもなれないし、笑ったところで声が出るかも怪しい。
独りでに自嘲の笑みがこぼれる。
「なんて、ざまだ」
独りでに口が動いて、ハンザキは驚く。
そして、壁に背中を引きずりながらその場に座り込んだ。
腹部からの出血は座っているところに赤い水たまりを作っていた。服はもう血を吸うことが出来ないほど濡れている。
「大丈夫か?」
その声に顔を上げると京介がいた。
「京介……」
足音はしなかったはずだ。
ただでさえ、四面コンクリート張りで足音はよくなるし、音もしっかり反響する。
「大丈夫か、腕を貸せ」
京介はハンザキの疑いも微塵も感じていないのか、ハンザキの腕をとって自分の肩に回す。
「京介。一体どこから」
「家から」
「い、家って」
そう言うことを聞いてるんじゃ。
「全く、能力者ならさっさとそういえばいいものを。まあ、俺も同じ状況で言えるか分からないが。とにかく、ずらかるぞ」
その瞬間、身体が数センチ浮く。
この感覚は……
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コンクリートがむき出しの壁に、ハンザキは寄り掛かる。
意識は靄がかかったように朧気で、不意に焦点が合わなくなる。それを、必死で意識を呼び起こすと、こんどは腹部の傷が痛んでくる。
勝手に家を抜け出して、あの殺戮バカに見つかった挙げ句このざま。
笑う気にもなれないし、笑ったところで声が出るかも怪しい。
独りでに自嘲の笑みがこぼれる。
「なんて、ざまだ」
独りでに口が動いて、ハンザキは驚く。
そして、壁に背中を引きずりながらその場に座り込んだ。
腹部からの出血は座っているところに赤い水たまりを作っていた。服はもう血を吸うことが出来ないほど濡れている。
「大丈夫か?」
その声に顔を上げると京介がいた。
「京介……」
足音はしなかったはずだ。
ただでさえ、四面コンクリート張りで足音はよくなるし、音もしっかり反響する。
「大丈夫か、腕を貸せ」
京介はハンザキの疑いも微塵も感じていないのか、ハンザキの腕をとって自分の肩に回す。
「京介。一体どこから」
「家から」
「い、家って」
そう言うことを聞いてるんじゃ。
「全く、能力者ならさっさとそういえばいいものを。まあ、俺も同じ状況で言えるか分からないが。とにかく、ずらかるぞ」
その瞬間、身体が数センチ浮く。
この感覚は……
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ΘΟΚΡΑΤΙΑ 二章 一話
「芭珥が死にました」
左羽連座、馬福は厩に入るなり、そこで待ちかまえていた金髪の男を見つけ、そう言った。
風奈で芭珥の死を確認した馬福は、鵺を走らせて半日で宗円に戻った。
普通なら、早くても一晩かかる。そこを、半日で戻ったというのに、佗毘はそれを始めから知っていたように、厩で待っていた。
「瑠璃は?」
金髪の男、左羽顧問の佗毘が尋ねる。
「生きています。土蜘蛛の生き残り――自称ですがおそらく事実だとおもいます。それが居たので、わざわざ殺しに行ってしっぺ返しを食らう必要はないと思いまして」
必要なら殺しに行きますが、と馬福は言ったが、上々、と佗毘は言って満足げにうなずいた。
「あれにはいずれ、摂政殿の行方を語ってもらわねばならぬ。今、殺そうと焦る必要はない」
「と、いうことは芭珥は元から殺されることが分かっていたってことですか?」
鵺を厩につなぎ、馬福は小汚い椅子に座る佗毘の前に立つ。
「いや、そんなことはいくら私でも分からぬ。紗來の居場所を知っているのは瑠璃だけではない。桂王の下、中羽を構成していた、花越、亞祁、在悧。その中で、居場所が割れていて、口が軽そうなのが彼女なだけだ」
口が軽そう、と佗毘は簡単に言うが、拷問――それこそ、精神的にも、肉体的にも無惨な仕打ちをした結果、だれが一番早く口を割るか、であり、馬福としては自分がアレをやられて、瑠璃よりも長く黙秘できる自信はない。
「ただ、芭珥の忠誠の印に殺される、という役割は瑠璃にしか出来ぬ。そういうことだ」
そういって、佗毘は立ち上がり厩を後にする。
「忠誠、結局アレにはそれがなかったですしね」
「ん? 瑠璃を殺そうとして、護衛かなんだか知らないが、土蜘蛛と刺し違えたんじゃないのか?」
首をかしげる佗毘。
普段、異様に落ち着いていて、未来が見えているような態度からはあまり見られない不用意な態度。
「いえ、土蜘蛛は通りかかっただけです。芭珥は一度は瑠璃を殺そうとしたのですが、そこへたまたまいた、土蜘蛛と揉めたんです。芭珥は土蜘蛛の殲滅のとき、指揮を執っていましたから」
「その、混乱に乗じて瑠璃は逃亡、土蜘蛛に殺された。では忠誠心がない、にはならないな」
「ええ」
と馬福はうなずく。
「一度は、瑠璃に逃げられ、土蜘蛛によって痛手を負った、まではあってます。ただ、そこへ、逃げた瑠璃が戻ってきて、土蜘蛛との先頭のどさくさに紛れて、後ろから刺されたんです」
「瑠璃にか?」
佗毘は眉をひそめる。
「さいわい、致命傷にはなりませんでしたが、彼はそのまま首を切りました。自殺です」
「瑠璃を殺さないための自殺、ということか。忠誠心は確かになかったようだな。だが、瑠璃に刺された、ということは桂王の差し金でもなかったということか……。案外、私に成り代わろうとした野心家だったのかもな。ならば、別に使い道があったものを」
佗毘はクツクツと小気味悪い笑いを漏らす。
「とにかく、桂王の小娘は放ってはおくまい。それをかくまった風奈も同罪。朱莉にはそう言っておけ」
「わかりました」
と、馬福は言う。
「いつも通り、三日後に奏上します」
上々、と佗毘はほくそ笑む。
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悪魔
魔術師の出現
ておくら エピローグ (BlogPet)
全ては無極の意志と、広い三つなどを採用しなかった芭珥はいい線いってるが、キャストが少なすぎだ
あれではシナリオも完璧だし、キャストが少なすぎだ
風奈、富場、神武の
もう一つは佗毘の?
と、房之介が考えたの。
*このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「房之介」が書きました。
あれではシナリオも完璧だし、キャストが少なすぎだ
風奈、富場、神武の
もう一つは佗毘の?
と、房之介が考えたの。
*このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「房之介」が書きました。
ておくら エピローグ
「つまり、三つのシナリオがあったのね?」
氷良は桂王に尋ねた。
「そう、一つは僕の。もう一つは佗毘の。んで、誰にも気付かれなかった芭珥の。この三つ」
「そのなかで、あなたのが採用されたのはどうして?」
答えたのは佐伯だった。
「芭珥はいい筋書だったけど、読みが浅すぎだ。風奈、富場、神武のいずれかの介入を予見できなかったのが一番の敗因だな。その分、佗毘のは読みはいい線いってるが、キャストが少なすぎだ。あれではシナリオ通りのことは出来ても、アドリブが効かない。それに比べて、桂王のはシナリオも完璧だし、キャストも多い。少し多すぎる気もするが……」
「用心に越したことはない」
桂王はそう言って笑う。
「とにかく、あなたのシナリオが完璧に近かったから採用されたってこと」
「さあ、全ては無極の意志と、神の気まぐれだから」
そういって、彼は子供のような笑みをこぼす。
続きを読む..
失敗作
「芭珥……」
「久し振りだな。瑠璃」
「佗毘たちは?」
「佗毘の左軍と朱莉の右軍は宗円で待機している。が中軍を率いてこっちに来ている」
「それで、あんたは敵情視察?」
「そんなところだ」
「そう。紗來摂政の行方の方は分かったの?」
「さっぱりだな」
芭珥は唇をかむ。
「お前は知ってるんだろう?」
「私は知らない。我が主なら知ってるけど」
「そうか」
「ところで、偵察だけじゃないわね」
瑠璃はそう言って芭珥の剣を指差す。
所帯なさげに右手が剣の柄を探っている。
「そうだな」
芭珥は自嘲気味に笑う。
「佗毘は疑っている。もともと、俺は桂王に近かった。そういうことで、朱莉も疑われてるからわざわざ征服軍の煌座なんてやらされている」
「それで、芭珥は。偵察が忠誠の印にはならないことは知ってるわよ」
「お前を殺せ。それが佗毘の命令だ」
「桂王に近いけど、利にならないからね」
平然という瑠璃。
「この期に及んで、迷っているの」
「どう思う?」
尋ね返した芭珥を瑠璃は、情けない、と一蹴する。
「花越から聞いたわ。自ら望んで佗毘に寝返ったそうじゃない?」
「怨んでいるのか?」
「全然」
瑠璃は興味ないとでも言うように大きく首を振る。
「自分で選んだ道なら堂々と進めばいいじゃない? なんで迷うの?」
「――迷うな、どういうつもりだ?」
「知らないわ」
そうか、と芭珥はいい剣を抜いた。
ただの剣にしては太めの鞘から現われる異形の刀。
波のような蛇行した刀身を持つ、蛇行剣。
「俺には、佗毘の信用が必要なんだ」
振り下ろされる剣。
瑠璃は逃げなかった。殺されても良かったのかもしれない。
それで、彼が生き残れるのなら……
剣は目の前に迫る。思わず目を閉じた。
刹那。
斬撃はやってこなかった。かわりに劈くような刃同士がかみ合う声。
「あなた、死ぬ気?」
同時に瑠璃を叱責する女声。
目を開けると、見知らぬ女が芭珥の刀を受け止めている。
「早く、逃げなさい。死ぬ気じゃないなら」
瑠璃はそう言われ、逃げるようにその場を離れる。
「全く、こんなことになるなら、もっと怒らせておくんだったな」
芭珥は自嘲する。
「あなた、なんなの?」
「ハッキリしない奴だと笑え。殺す気で刀は抜いたつもりだったんだが」
「そんなこと、どうでもいいわ。あなた、鬼ね」
「ご名答。紅血の芭珥だ」
「私も名乗った方がいいわね。もも子。姓はないわ」
「上々。覚えていよう。殺してもな」
芭珥は剣を握る手を強める。
いまさら、後に引くことは出来ない。
無傷で返れば反逆と言われる。多少の傷でも同じだろう。瀕死の重傷にちかいところで逃げる。それが得策か。
「よし」
芭珥はもも子に噛みつく。
もも子は小慣れたもので、彼の斬撃を刀身で僅かに逸らし骨法のような奇妙な体術で果敢に体勢を崩しに来る。
芭珥も負けず、不利な体勢からも斬撃を放つ。刀身はもも子の頬をかすめ血色の線を描いた。
戦い方が異様に慣れている。それに女なのに力が強い。別に差別というわけではない。ヘタな男より鍛えた女の方が力がある。だが、芭珥は軍、特に左羽の中では怪力で知られる方。それが、どう見ても華奢としか形容できないもも子に推される。戦い方の問題ではない。それは、瑠璃をかばった時に証明された。
「戦ってる間に、目ぇ逸らしてるんじゃないのっ」
ハッと、我に返る芭珥。
だが、それは一瞬の遅れだった。
ほとばしる鮮血、同時に二の腕に痛烈な痛みが走る。そして、一拍遅れて地面に落ちる『刀を握ったままの右腕』。
「っく」
芭珥は慌てて待機させていた騎獣を呼ぶ。
弥々という鵺。
芭珥はすがるように手綱を求めた。
「逃がすか」
もも子が吼える。
その声に、反射的に視線がもも子に向いた。そのせいで、手綱を握る手が宙を掠め、弥々は一人で蒼穹に飛翔した。
「芭珥、ゴメン」
芭珥の背に冷たいものがのめり込んだ。
もも子ではなかった。彼女は目の前の光景を呆然と見ている。
瑠璃。
戻ってきたのか……。
「大丈夫だ。致命傷じゃない」
幼子には、殺すほどの力が足りない。それに、殺せる位置まで手が届かない。
「バカ娘が」
芭珥は呆れ気味に乾いた笑みを浮かべ、背中を探り刀を抜く。
そして、それで自らの喉を掻ききった。
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「久し振りだな。瑠璃」
「佗毘たちは?」
「佗毘の左軍と朱莉の右軍は宗円で待機している。が中軍を率いてこっちに来ている」
「それで、あんたは敵情視察?」
「そんなところだ」
「そう。紗來摂政の行方の方は分かったの?」
「さっぱりだな」
芭珥は唇をかむ。
「お前は知ってるんだろう?」
「私は知らない。我が主なら知ってるけど」
「そうか」
「ところで、偵察だけじゃないわね」
瑠璃はそう言って芭珥の剣を指差す。
所帯なさげに右手が剣の柄を探っている。
「そうだな」
芭珥は自嘲気味に笑う。
「佗毘は疑っている。もともと、俺は桂王に近かった。そういうことで、朱莉も疑われてるからわざわざ征服軍の煌座なんてやらされている」
「それで、芭珥は。偵察が忠誠の印にはならないことは知ってるわよ」
「お前を殺せ。それが佗毘の命令だ」
「桂王に近いけど、利にならないからね」
平然という瑠璃。
「この期に及んで、迷っているの」
「どう思う?」
尋ね返した芭珥を瑠璃は、情けない、と一蹴する。
「花越から聞いたわ。自ら望んで佗毘に寝返ったそうじゃない?」
「怨んでいるのか?」
「全然」
瑠璃は興味ないとでも言うように大きく首を振る。
「自分で選んだ道なら堂々と進めばいいじゃない? なんで迷うの?」
「――迷うな、どういうつもりだ?」
「知らないわ」
そうか、と芭珥はいい剣を抜いた。
ただの剣にしては太めの鞘から現われる異形の刀。
波のような蛇行した刀身を持つ、蛇行剣。
「俺には、佗毘の信用が必要なんだ」
振り下ろされる剣。
瑠璃は逃げなかった。殺されても良かったのかもしれない。
それで、彼が生き残れるのなら……
剣は目の前に迫る。思わず目を閉じた。
刹那。
斬撃はやってこなかった。かわりに劈くような刃同士がかみ合う声。
「あなた、死ぬ気?」
同時に瑠璃を叱責する女声。
目を開けると、見知らぬ女が芭珥の刀を受け止めている。
「早く、逃げなさい。死ぬ気じゃないなら」
瑠璃はそう言われ、逃げるようにその場を離れる。
「全く、こんなことになるなら、もっと怒らせておくんだったな」
芭珥は自嘲する。
「あなた、なんなの?」
「ハッキリしない奴だと笑え。殺す気で刀は抜いたつもりだったんだが」
「そんなこと、どうでもいいわ。あなた、鬼ね」
「ご名答。紅血の芭珥だ」
「私も名乗った方がいいわね。もも子。姓はないわ」
「上々。覚えていよう。殺してもな」
芭珥は剣を握る手を強める。
いまさら、後に引くことは出来ない。
無傷で返れば反逆と言われる。多少の傷でも同じだろう。瀕死の重傷にちかいところで逃げる。それが得策か。
「よし」
芭珥はもも子に噛みつく。
もも子は小慣れたもので、彼の斬撃を刀身で僅かに逸らし骨法のような奇妙な体術で果敢に体勢を崩しに来る。
芭珥も負けず、不利な体勢からも斬撃を放つ。刀身はもも子の頬をかすめ血色の線を描いた。
戦い方が異様に慣れている。それに女なのに力が強い。別に差別というわけではない。ヘタな男より鍛えた女の方が力がある。だが、芭珥は軍、特に左羽の中では怪力で知られる方。それが、どう見ても華奢としか形容できないもも子に推される。戦い方の問題ではない。それは、瑠璃をかばった時に証明された。
「戦ってる間に、目ぇ逸らしてるんじゃないのっ」
ハッと、我に返る芭珥。
だが、それは一瞬の遅れだった。
ほとばしる鮮血、同時に二の腕に痛烈な痛みが走る。そして、一拍遅れて地面に落ちる『刀を握ったままの右腕』。
「っく」
芭珥は慌てて待機させていた騎獣を呼ぶ。
弥々という鵺。
芭珥はすがるように手綱を求めた。
「逃がすか」
もも子が吼える。
その声に、反射的に視線がもも子に向いた。そのせいで、手綱を握る手が宙を掠め、弥々は一人で蒼穹に飛翔した。
「芭珥、ゴメン」
芭珥の背に冷たいものがのめり込んだ。
もも子ではなかった。彼女は目の前の光景を呆然と見ている。
瑠璃。
戻ってきたのか……。
「大丈夫だ。致命傷じゃない」
幼子には、殺すほどの力が足りない。それに、殺せる位置まで手が届かない。
「バカ娘が」
芭珥は呆れ気味に乾いた笑みを浮かべ、背中を探り刀を抜く。
そして、それで自らの喉を掻ききった。
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隠形百鬼夜行(7)
――4,
「それは?」
大旦那が駆け寄って訊ねる。
「鬼を見えなくする呪禁を書いた目隠しです」
西園寺はそう言って視線を落とす。
彼の膝の中で眠る璃凛。よほど疲れたのだろう。
その様子を、女中は見て、彼女を起こさないように抱きかかえて寝室へ持っていく。
「これで、鬼は見えません」
「見えなくて、大丈夫なのですか?」
「昼間は」
西園寺は意味深にそこで言葉を切った。
「昼は鬼が見えても何も出来はしません。陽の気が強すぎますから。ただ、夜になれば話は別です。とくに満月以降が危ない。その時は多少怖がっても外して下さい。見えなければ逃げようがありませんが、見えれば逃げられます。我々には見えないので助けようがありませんが」
そう言った西園寺の目は少し哀しそうだった。
「なぜ、鬼は孫を狙ったのでしょう。どう考えても、怨まれるのは我が両親か私のはず」
「おそらく、あの鬼は『松波屋の主人の子供を殺す』で出来ているからだと思います」
「出来ている?」
大旦那は不可解な顔をする。
「我々が鬼と呼んでいるのは、人のうらみです。字で書くと『立心偏』に『感』、『憾』です。あなた方は鬼というと成仏できなかった人間の魂だと思っているのでしょうが、それは間違いです。すべての人間は死ねば漏れなく成仏、と呼ばれる状態になります。しかし、このとき生前やり残したことに対する強い思いを抱いていた時。その感情だけがこの世に残り、世間にはびこる同種の、“生きた人間”の感情を取り込み強い思いとなり、陰退きと混じり合い、その思いを現実のものとするため、形になります。それが鬼です。つまり、今回の鬼はお蓮ではなくお蓮の遺志が一人歩きし始めたものです」
「なんと……」
「お蓮さんはすでに救われています。そのことに対して大旦那が負い目を感じることはしなくてもいいんです。ただ、あれだけは璃凛さんを殺すまで救われることなく動き続ける。生命のない、あれを救うことが祓い屋の仕事。この世で最もムダな仕事です」
新月の夜まであと三日。
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「それは?」
大旦那が駆け寄って訊ねる。
「鬼を見えなくする呪禁を書いた目隠しです」
西園寺はそう言って視線を落とす。
彼の膝の中で眠る璃凛。よほど疲れたのだろう。
その様子を、女中は見て、彼女を起こさないように抱きかかえて寝室へ持っていく。
「これで、鬼は見えません」
「見えなくて、大丈夫なのですか?」
「昼間は」
西園寺は意味深にそこで言葉を切った。
「昼は鬼が見えても何も出来はしません。陽の気が強すぎますから。ただ、夜になれば話は別です。とくに満月以降が危ない。その時は多少怖がっても外して下さい。見えなければ逃げようがありませんが、見えれば逃げられます。我々には見えないので助けようがありませんが」
そう言った西園寺の目は少し哀しそうだった。
「なぜ、鬼は孫を狙ったのでしょう。どう考えても、怨まれるのは我が両親か私のはず」
「おそらく、あの鬼は『松波屋の主人の子供を殺す』で出来ているからだと思います」
「出来ている?」
大旦那は不可解な顔をする。
「我々が鬼と呼んでいるのは、人のうらみです。字で書くと『立心偏』に『感』、『憾』です。あなた方は鬼というと成仏できなかった人間の魂だと思っているのでしょうが、それは間違いです。すべての人間は死ねば漏れなく成仏、と呼ばれる状態になります。しかし、このとき生前やり残したことに対する強い思いを抱いていた時。その感情だけがこの世に残り、世間にはびこる同種の、“生きた人間”の感情を取り込み強い思いとなり、陰退きと混じり合い、その思いを現実のものとするため、形になります。それが鬼です。つまり、今回の鬼はお蓮ではなくお蓮の遺志が一人歩きし始めたものです」
「なんと……」
「お蓮さんはすでに救われています。そのことに対して大旦那が負い目を感じることはしなくてもいいんです。ただ、あれだけは璃凛さんを殺すまで救われることなく動き続ける。生命のない、あれを救うことが祓い屋の仕事。この世で最もムダな仕事です」
新月の夜まであと三日。
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機関銃と小学生
銃声は途絶え、弾幕がだんだん晴れていった。
晴れるにつれて、蜂の巣になったブロック塀や、腹部に赤いシミをもった屍が現れ、そして、最後に大小二つの人影が現れる。
「ランドセルに物騒なもの仕込むなよ」
七瀬は呆れて、煙草に火を付ける。
「なに言ってるの、ランドセルってのは元々軍用の背負いカバンが原型なんだよ? 今時の小学生、機関銃の一個や二個、カバンの中に仕込んでたってフツー」
「じゃない」
「ちなみに、横のフックには手榴弾が引っかかってます」
「ムシかよ」
「ついでに、只今ロケットランチャーが飛び出るギミックを」
「作るな」
「ところで、七瀬さん。今、何時?」
「8時23分だな」
「やば、遅刻。じゃあ」
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晴れるにつれて、蜂の巣になったブロック塀や、腹部に赤いシミをもった屍が現れ、そして、最後に大小二つの人影が現れる。
「ランドセルに物騒なもの仕込むなよ」
七瀬は呆れて、煙草に火を付ける。
「なに言ってるの、ランドセルってのは元々軍用の背負いカバンが原型なんだよ? 今時の小学生、機関銃の一個や二個、カバンの中に仕込んでたってフツー」
「じゃない」
「ちなみに、横のフックには手榴弾が引っかかってます」
「ムシかよ」
「ついでに、只今ロケットランチャーが飛び出るギミックを」
「作るな」
「ところで、七瀬さん。今、何時?」
「8時23分だな」
「やば、遅刻。じゃあ」
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紙上乃楼閣(3)
よく知られた話。
1円玉の製造コスト――すなわち、価値は2円である。
しかし、一円玉は二円にはならない。
なぜならば、お金は価値ではなく信頼によって金額が決まるからである。
それならば、「二円」が「一円」になっている一円玉の信頼度は「50%」である。
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1円玉の製造コスト――すなわち、価値は2円である。
しかし、一円玉は二円にはならない。
なぜならば、お金は価値ではなく信頼によって金額が決まるからである。
それならば、「二円」が「一円」になっている一円玉の信頼度は「50%」である。
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紙行錯誤(9)
「コーヒー入ってるから、勝手に飲んでいいよ。そのかわり僕にもちょうだい」
耕助はそう言って殻になったマグカップを差し出す。
「砂糖は?」
「2つ」
「ミルクは?」
「たっぷりめ」
「甘党ならコーヒー呑まなきゃいいのに」
文句を言いつつも、言われた通りミサキはコーヒーを渡す。
「モカとかは甘いよ?」
「なんでそこまでしてコーヒーが飲みたいの?」
続きを読む..
耕助はそう言って殻になったマグカップを差し出す。
「砂糖は?」
「2つ」
「ミルクは?」
「たっぷりめ」
「甘党ならコーヒー呑まなきゃいいのに」
文句を言いつつも、言われた通りミサキはコーヒーを渡す。
「モカとかは甘いよ?」
「なんでそこまでしてコーヒーが飲みたいの?」
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